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連載 Ledlenser PEOPLE #004 横山峰弘さん(プロトレイルランナー)
2024.11.21
(photos and words by Koki Nojima: Ledlenser Japan)
連載 Ledlenser PEOPLE
#004 横山峰弘さん(プロトレイルランナー)
「山は待っていてくれる。でも、チャンスはいつまでも待ってはくれない」
トレイルランナーにはグッドガイが多い。人当たりがやわらかく、謙虚で素直、ニコニコしている人が多いのだ。その理由は一度でもトレイルレースの世界に足を踏み入れてみればすぐにわかる。
スタートやゴールは華やかでも、レース中のランナーは恐ろしく孤独だ。人里から遠く離れたトレイルともなると、孤独感もひとしお。その中で50km、100kmはおろか、レースによっては100mile(160km)以上を駆ける。いくつもの山を越え、夜を超え、時には冷たい雨に打たれながら。鍛錬を積んだベテラン選手にも、様々なことが容赦なく起こる。
孤独な闘いの果てに
身体が悲鳴を上げ、疲労と痛みは当たり前の世界。そのすべてを受け入れ、やりくりし、それでも前へ。「ツラくなってからが本当のトレラン」という横山選手の言葉が、多くのランナーの心に刻まれている。
だからこそトレイルレースを走る選手たちには、最大級の尊敬と栄誉が与えられる。順位に関係なく、過酷を極めるその挑戦自体が心からの賞賛に値するからだ。選手たちは、沿道からの応援の声がどれほど心強いか、エイド(補給箇所)での一時の安らぎがどれほど温かいものか、身をもって知っている。
レジェンドの歩み
「山との対話は、自分との対話。謙虚さを忘れた時が、最も危険な瞬間です」
その中でも横山峰弘選手は特別な存在だ。2004年、35歳で「ハセツネ」こと日本山岳耐久レースを制し、人生が一変した。
2008年にはトレランレースの世界最高峰UTMBに挑戦。翌2009年には6位入賞という輝かしい戦績を残した。しかし、その輝かしい実績を持ちながら、どこまでも謙虚で気負わない自然体の姿勢は変わらない。
幼少期からのスキー、中高時代のサッカー、大学での山岳スキーや登山。様々なアウトドアスポーツを経験したスポーツエリートである横山選手は、29歳でアドベンチャーレースと出会い、38歳でトレイルランニングに専念。39歳での UTMB 入賞はまさに快挙。多くのメディアを揺るがすニュースとなった。
新たな挑戦へ
あれから15年。輝かしい戦績の陰で、怪我との長い闘いが続いた。しかし、名医との出会いを経て、今またコンディションは上向きつつある。「UTMBは僕の人生そのもの。あの山々が呼んでいる限り、挑戦し続けます」と、今年、そして来年への決意を語る。
現役最古参の部類に入るレジェンドでありながら、その清々しい佇まいは、シャイな性格も相まって、重鎮としての威厳を感じさせない。
スポーツで身を立ててきた苦労人。怪我によるストレスや肩身の狭さは計り知れないものがあったはずだ。より楽な道を選ぶこともできたはずなのに、横山さんはあくまで選手であり続けることを選んだ。
恩返しの心
「受けた恩は、次の世代に返していく。それがトレイルランニングの文化を育てることになるんです」
横山選手の真価は、その「恩返しの精神」にも表れている。テイカーばかりが目立つ競技の世界で、氏は徹底したギバーであり続けている。アドベンチャーレース時代からの拠点、群馬県みなかみ町では毎年トレイルレースを主催。
THE NORTH FACEの契約アスリートとして、製品開発に携わる傍ら、全国各地のイベントやレースで後進の指導にも力を注いでいる。
「最新のギアは私たち選手の限界を押し広げてくれる。でも最も大切なのは、それを使う人の心構えです」。トレラン黎明期からすべてを見てきたレジェンドの経験とノウハウが、次世代のギア開発にも活かされている。
新たな夢への挑戦
「年齢を重ねることは、可能性を広げること」
イタリアのレジェンド、マルコ・オルモさんがUTMBを連覇した58歳、59歳という年齢。その境地に近づきつつある今、横山選手の瞳は以前にも増して輝きを増している。選手としての絶頂期に怪我という長いトンネルをくぐり抜け、今また新たな目標が見えてきた。
苦労をバネに、どんなときも挑戦をやめなかった横山さんだからこそ、その背中を追いかける後進たちや、応援を送る支援者は増える一方だ。かつて歩くことさえままならなかった孤独なランナーは、今や決して孤独ではない。
誰もが勝利の女神が微笑む瞬間を待ち望んでいる。横山選手のあくなき挑戦は続く。チャレンジャーである前に紳士であるレジェンドは走り続ける。誰よりも強い信念と熱い闘志を胸に秘めて。
速さよりもはるかに大切な何かを持つ、魅力的な選手。それが横山峰弘という男だ。その背中は、これからも多くのトレイルランナーたちの道標となり続けるだろう。RESPECT & GOOD LUCK!
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