連載 Ledlenser PEOPLE #006 三浦裕一さん(プロトレイルランナー)「本質的な強さと、大切にすべき価値」

(photos and words by Koki Nojima: Ledlenser Japan)

Ledlenser PEOPLE #006
三浦 裕一さん(プロトレイルランナー)

「本質的な強さと、大切にすべき価値」

エリートランナーとしてのキャリアを重ね、今や日本を代表するトレイルランナーとして第一線で活躍する三浦裕一。その走りは、まさに芸術だ。しかし、彼が語る言葉の端々には、単なる「速さ」を超えた、深い洞察が垣間見える。

中学・高校と陸上で頭角を現し、大学は箱根駅伝の名門校へ進んだ三浦。1年時の大怪我で一度は挫折を味わうも、復帰後の湘南国際マラソンで見事初優勝。その後、27歳でトレイルランニングに転向し、わずか2年でスカイランニングアジア大会日本代表の座を手にする。
31歳では、スカイランニング世界選手権Ultra部門で日本人最高位となる総合10位を記録。同年、国内トレイルランニングの最高峰レース「ハセツネ」でも優勝。以後も勝利や上位入賞を重ねている。

しかし、彼の真価は、純粋な競技実績を超えたところにある。

「速さは確かに大切。でも、それ以上に大切なものがある」

近年のトレイルランニングブームを懸念する声も上がる中、三浦が最も心を痛めているのは、マナーの問題だ。

「山は私たちトレイルランナーだけのものじゃない。そこに入る人々、そこに暮らす生き物を含め、みんなの共有財産です。トレイルランナーとして、その認識は絶対に忘れてはいけない」

トレイルランナーとハイカーが接触しそうになったり、自然を傷つけるような走り方を目にしたとき、三浦はできるかぎり声をかける。それは、日本代表として、チャンピオンとしての責任でもある。

「登山道では、必ずハイカーを優先します。追い抜くときは、早めに声をかけ、感謝の一言を添える。これは譲れない原則です。速く走れることは素晴らしい。でも、それは他者への思いやりがあってこそ」

レッドレンザーのショールームで取材に応じた三浦の表情は、この話題になると引き締まる。鍛え抜かれた身体に宿る強さとは別の、確固たる信念が感じられた。

地元横浜で主宰する三ツ池トレイルランニングクラブでの活動や、レース運営への関わりを通じて、彼が最も重視するのは「リスペクト」という言葉だ。それは自然に対してはもちろん、フィールドを共有するすべての人々に向けられている。

「レースでも、エイドステーションや沿道で活躍するボランティアさんへの感謝は欠かせません。たとえ極限状態でも、せめて手を挙げるくらいの余裕は持ちたい。そういった小さな気遣い、心配りの積み重ねが、この競技の未来を作っていくんです」

この言葉の重みは、トップアスリートならではのものだ。時に勝利への執着が、大切なものを見失わせることがある。しかし三浦は、競技の普及に尽力する中で、真の強さとは何かを体得してきた。

撮影場所に指名したのは、中学時代から25年ほど通い詰めている、ゆったりとした公園。そこには、散歩を楽しむ高齢者、愛犬家、元気に駆け回る子供たちの姿があった。園内には舗装路だけでなく不整地がひろがり、高低差もある。そこで息を弾ませ、自由に走る学生やランナーたち。

異なる目的を持つ人々が、互いを思いやりながら共存する空間。まさに、三浦の描くトレイルランニングの原点がそこにある。

「トレイルランニングは、もっと自由であっていい。100km以上のロングやウルトラも、20kmのショートも、50kmのミドルも、それぞれに価値がある。海外では、実はショートディスタンスの方が盛り上がっているんです。大切なのは距離ではなく、山への敬意と、仲間との絆」

日本代表として世界の舞台を知る三浦だからこそ、競技の本質を見据えた提言には説得力がある。それは、道具や装備を選ぶ目線にも通じる。本物を知る者だけが持つ、揺るぎない判断基準。

トレイルランニングという競技の新たな地平を切り開きながら、なお謙虚であることを重んじる三浦裕一。その背中は、競技者としての卓越性と、人としての深みを兼ね備えた、真のチャンピオンの姿を私たちに示している。

 

三浦さんの目はやさしい。競技者であっても、ぎすぎすした雰囲気での練習は好まない。そんな人柄を慕って集まる仲間は多く、コーチとしても多忙な日々を過ごす。プライベートでは二児の父でもあり、お子さんの送り迎えもこなす良きパパだ。

名門モントレイルを経て、昨年からHOKAの契約アスリートとして活躍している。この日、彼が選んだのは「TORRENT 4」。HOKAのトレランシューズでは最もベーシックなモデルで、軽量かつクッション性に優れる。ハセツネのようなコースではおすすめだという。それに組み合わせたソックスは90年もの歴史を誇る奈良の老舗「OLENO(オレノ)」。どちらも実に通好みの選択だ。

ヘッドランプは長らくレッドレンザーを使ってくださっている。25年も通い詰めている撮影地の公園は、隅の隅までその地形とサーフェイスを知り尽くしているため、夜でもヘッドランプは不要なくらいだという。2025シーズンは加賀温泉やモンブランでの活躍が楽しみ。Go for it!

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